映画『フルメタル・ジャケット』の解説(ネタバレ有)生と死。動と静。地獄を生きるという二面性を描いた戦争映画の名作

こんにちは。
akira(@akira_movielabo)です。
今回の深掘り映画は『フルメタル・ジャケット』です。

1987年公開の戦争映画。
監督スタンリー・キューブリック、脚本スタンリー・キューブリック、マイケル・ハー、グスタフ・ハスフォード。116分。
反戦映画と評されることも多いですが、キューブリック本人は戦争そのものを映画にしたかったようです。
訓練教官を務めたR・リー・アーメイは当初演技指導者として呼ばれたのですが、あまりにも生々しく迫力が凄かったために出演が決まったようです。元々演じる予定だったティム・コルセリはヘリから農民を撃ちまくる兵士を演じ、短いながらも強烈なキャラクターを見せました。キューブリックは翻訳も自分でチェックするため、教官のセリフも強烈なものが多いですね。役者の中で本当に怒り出す人もいたそうです。
映画『フルメタル・ジャケット』が観られる配信サービス
この記事はネタバレも含むので、1度観てから一緒に考察していくのがおすすめです。
下の表から自身の使っているサービスで観られるか確認してみてください。
配信状況
サービス | 配信状況 | 配信種別 |
---|---|---|
U-NEXT | ◯ | 定額 ※1 |
Prime Video | ◯ | 定額 ※1 |
NETFLIX | × | ー |
Hulu | × | ー |
Disney+ | × | ー |
TSUTAYA DISCAS ※3 | ◯ | 定額 ※1 |
※1 定額は毎月支払うサービス利用料内で観ることができる見放題作品です。
※2 レンタルは見放題作品に含まれておらず、別途レンタル料が発生します。
※3 TSUTAYA DISCASは宅配レンタルサービスです。
※4 Prime VideoのスターチャンネルEXは、別途月額利用料が発生します。
この記事の情報は、2025年6月時点のものです。最新の配信状況はお使いいただくサービスにてご確認ください。
個人的にオススメのVODサービスは、取り扱っている作品数が段違いなU-NEXTか、サービスが充実していてコスパの良いPrime Video。
どちらもトライアル期間が1ヶ月あるので、使い心地を自分で実際試せます。まだ使ったことがない人は、ぜひこの機会に試してみてください。


他にもオススメの動画配信(VOD)サービスを選ぶ基準別に紹介しているので、使うサービスに悩んでいる人や、気になる人はこちらの記事をご覧ください。

映画『フルメタル・ジャケット』のヒーローズジャーニー
それでは、映画の流れがヒーローズジャーニーの法則に沿って進んでいくのかみていきましょう。

ヒーローズジャーニーって何?
という方はこちらの記事をどうぞ!!

日常世界・賢者との出会い
海兵隊訓練所に入ったジョーカー。ハーマンは鬼のような教官で、常に罵声を浴びせてくる。反抗的な態度を示すジョーカー。
冒険への誘い
厳しい訓練が始まる。
戸口の通過
落ちこぼれの訓練生・ローレンスのサポートを命じられるジョーカー。
試練、仲間、敵
ジョーカーが丁寧に指導し、ローレンスは少しづつ成長していく。ローレンスには射撃の才能がある。
最も危険な場所への接近
が、ローレンスはドーナツを兵舎に持ち込んでしまい、ローレンス以外に罰を与えるハーマン。その後も同じようなことが繰り返され、ローレンスは皆からいじめられ始める。
最大の試練
卒業前夜。実弾を盗んだローレンスに気づくジョーカーとハーマン。ハーマンは銃を取りあげようとするが、ローレンスはハーマンを射殺し、自殺する。
報酬
ベトナム戦争に送られたジョーカー。同期のカウボーイと再会する。
帰路
小隊長らを失い、新たに隊長を命じられるカウボーイ。しかし戦死してしまう。
復活
ジョーカーらは復讐を決意し突撃、相手を瀕死にさせる。カウボーイを殺した兵士は若い少女だった。トドメを刺すジョーカー。
宝を持っての帰還
任期を終えることを期待しながら、戦場を歩くジョーカーら兵士たち。
映画『フルメタル・ジャケット』のテーマ
映画の前半では海軍学校での訓練、後半ではベトナム戦争の前線を描いた本作。
前半はハーマンによる怒号が飛び交いますが、命の危険はない。一方後半の戦争の前線ではユーモアを言いながら日々殺し合いが行われる。
前半では精神的な物語を描き、後半はじっくりと行動を見せる。
この映画には一貫してそれぞれの二面性が描かれており、
『地獄を生き延びる』
というまさに二面性・矛盾していることが描かれています。これがテーマです。
死と隣り合わせの戦場で、売春婦とのやりとりがあるシーンがいくつかあります。これも死とSEX(生と性)の二面性であり、どちらも命に通づるモチーフになっていますね。
映画『フルメタル・ジャケット』をさらに詳しく
ヒーローズジャーニーとは別に、もう一つ大切な要素が『三幕構成』。
三幕構成を用いてワンシーンずつみていきます。
第一幕
オープニング。坊主になるジョーカーら若者たち。カントリー調で兵士たちの心を歌った音楽と、インパクトのある映像でパンチのある始まり方ですね。彼らが日常から非日常へと入っていく儀式のように思えます。冒険への拒否というパートのシーンはありませんが、暗にこのシーンが入りたくない海兵隊に入れられてしまった、と感じさせるシーンとなっています。
そしてハーマンの登場。罵声と下ネタ混じりの暴言の数々、恐ろしく強烈で魅力的なキャラクターですね。勝手に喋り叱られるジョーカー。忠実な態度を取りながらも、時折反抗的な態度をとるジョーカー。彼の二面性を最初のシーンで説明しています。後半にも登場するカウボーイと、最後にローレンスをしかるハーマン。ローレンスは前半の重要なキャラクターなので、最初のシーンの最後に登場させて印象付けていますね。
朝から晩まで、肉体的にも精神的にも厳しい訓練のシーンが立て続けに描かれていきます。と同時に、怒鳴られ続けるローレンス。
『ジョーカーがローレンスのいる班長に任命される』これが第一ターニングポイントです。
ちなみに、本作ではヒーローズ・ジャーニーの『冒険の拒否』パートが省略されています。描かれていないオープニングの前ではキャラクターたちはごねていたかもしれませんが、強制的にやらされる、ということですね。
第二幕
これまで全体的な視点、もしくはハーマン視点でしたが、ここからはジョーカー視点で映画が進んでいきます。ジョーカーの教えで少しづつ成長していくローレンス。このままいい感じに進んでいくのかと思いきや、ローレンスのドーナツ事件によって周囲との関係が悪化。夜の襲撃にまで向かい、また物語の方向が変わっていきます。一瞬ためらうジョーカーも殴ってしまい、ローレンスの泣き声に耳を閉じるジョーカー。ここも二面性のドラマが表現されています。
掛け声をしなくなったローレンス。ハーマンが殺人犯が海兵隊で射撃の技術を得たと話すこと、ローレンスの顔のアップで、観客に今後の展開の予感を感じ取らせます。予想通りの展開はつまらないですが、今後を予感させることはドラマを感じ取らせることなので、とても大事なことです。
トイレでローレンスが限界だと話すジョーカー。前半のクライマックスの舞台となるトイレの構造の説明にもなっています。
卒業前夜のシーン。ただならぬ緊張感。ディテールまで完璧に鍛えられたが故に異常に見えるローレンスの行動、緩急のついたセリフ。躊躇いなく突然の射殺、はっきりと見せる自殺……圧巻ですね。
と思ったら軽快な音楽と共にあっさりとベトナムへ。切り替えがすごいです。いきなり売春と盗み。戦争の現地であるベトナムの雰囲気を説明します。報道員という役職になったジョーカーなので、カフェにいたり企画会議があったりと、戦争中でもゆったりとした入り方が自然とできるようになっています。
戦場にいながらピースサインのバッジをつけるジョーカー。二面性を体現しています。映画の半分の頃になって、ジョーカーはカウボーイと再会し、死のやりとりが行われる戦場での物語が始まります。戦場を走る歩兵の後ろから、同じような目線の高さで追いかけるアングル。ドキュメンタリーのように撮っていて臨場感を感じさせる演出ですね。時折入るハイテンションな音楽も、現場とのギャップが面白いです。
『カウボーイが隊長となり、街に侵入する』これが第二ターニングポイントです。
第三幕
敵兵士との死闘が描かれる第三幕。仲間やカウボーイが殺されながらも、相手を追い詰めるジョーカーたち。敵は若い少女の兵士でした。意外性もありながら、しかしこれがリアルな人選です。
クライマックスのジョーカーのアップのシーン、これも圧巻ですね。殺す瞬間にピースサインのバッジが隠れるのは果たして偶然なのか狙っているのか……
戦争ではあっさりと人が死んでいきますが、クライマックスでは逆に敵兵士を生かすことでドラマを生み出していますね。
ラストシーン、ミッキーを歌いながら進んでいくジョーカー。彼は生き残ることができたのか。戦場では先のことは誰にもわからず、希望を持ってただ生きのびていくだけです。
さいごに
シンプルなストーリーながら緩急をつけて描かれる戦場のリアリティー、生きることに必死なキャラクターたち、そして前半と後半にある二種類の狂気。どちらも凄い緊張感でとても素晴らしい映画でした。
次回はAmazonプライムビデオで配信中、M・ナイト・シャマラン監督、ブルース・ウィリス主演の『シックス・センス』を研究します!
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