映画『ヘアスプレー』の解説(ネタバレ有)願うだけでは叶わない。63分の歌とダンスで描く差別との闘い
こんにちは。
akira(@akira_movielabo)です。
今回の深掘り映画は『ヘアスプレー』です。
2007年公開のミュージカルコメディ映画。
監督アダム・シャンクマン、脚本レスリー・ディクソン。117分。
1988年の同名映画を元にしたミュージカル劇の映画化。117分の内、およそ半分の63分がダンス・歌のシーンになっています。
特殊メイクで女装し出演したジョン・トラボルタ。
元々デビュー前はブロードウェイでミュージカルに出演し、『サタデー・ナイト・フィーバー』でヒットしたので、ダンスや歌は流石ですね。
2020年6月に日本版のミュージカルが予定されており、トレーシー役に渡辺直美、メイベル役にCrystal Kay。納得の配役です。
映画『ヘアスプレー』が観られる配信サービス
この記事はネタバレも含むので、1度観てから一緒に考察していくのがおすすめです。
下の表から自身の使っているサービスで観られるか確認してみてください。
配信状況
サービス | 配信状況 | 配信種別 |
---|---|---|
U-NEXT | ◯ | 定額 ※1 |
Prime Video | ◯ | レンタル ※2 |
NETFLIX | ◯ | 定額 ※1 |
Hulu | × | ー |
Disney+ | × | ー |
TSUTAYA DISCAS ※3 | ◯ | 定額 ※1 |
※1 定額は毎月支払うサービス利用料内で観ることができる見放題作品です。
※2 レンタルは見放題作品に含まれておらず、別途レンタル料が発生します。
※3 TSUTAYA DISCASは宅配レンタルサービスです。
この記事の情報は、2023年12月時点のものです。最新の配信状況はお使いいただくサービスにてご確認ください。
個人的にオススメのVODサービスは、取り扱っている作品数が段違いなU-NEXT。
U-NEXTはトライアル期間が1ヶ月あるので、使い心地を自分で実際試せます。まだ使ったことがない人は、ぜひこの機会に試してみてください。
他にもオススメの動画配信(VOD)サービスを選ぶ基準別に紹介しているので、使うサービスに悩んでいる人や、気になる人はこちらの記事をご覧ください。
映画『ヘアスプレー』のヒーローズジャーニー
それでは、映画の流れがヒーローズジャーニーの法則に沿って進んでいくのかみていきましょう。
ヒーローズジャーニーって何?
という方はこちらの記事をどうぞ!!
日常世界
ボルチモアに住む歌と踊りが好きなビッグサイズの女の子・トレーシー。
大好きな番組は『コーニー・コリンズ・ショー』であり、ダンサーのリンクは憧れの存在だ。
冒険への誘い
番組の新メンバーオーディションを知るトレーシー。
冒険の拒否
しかし母・エドナに反対され、落ち込むトレーシー。
賢者との出会い
父・ウィルバーの助言で、オーディションに参加する。
しかし番組ディレクター・ベルマの差別的偏見で落選。
戸口の通過
学校で黒人ダンサー・ウィーシードと出会い、黒人グループと仲良くなる。
トレーシーのダンスを偶然見たリンクは、トレーシーを番組に誘う。
恋に落ちたトレーシー。
そして番組のレギュラーになる。
試練、仲間、敵
トレーシーブームが起きるボルチモア。
ビッグサイズにトラウマのあったエドナも、自信を取り戻す。
最も危険な場所への接近
シーウィードの家に向かうトレーシーとリンク。
最大の試練
シーウィードの母・メイベルは番組の『ブラックデー』のホストだったが、打ち切りになったと報告し、みなショックを受ける。
デモを提案するトレーシー。
メイベルらは賛同するが、リンクはリスクが大きすぎる、と去っていく。
またベルマはウィルバーを誘惑し、ウィルバーとエドナとの関係を悪化させる。
報酬
夢を叶えるためには家を出て戦わなければならないと悟るトレーシー。
デモに参加する。
帰路
警察に手を出してしまい、追いかけられるトレーシー。
復活
ミス・ヘアスプレーを決める生放送にトレーシーが登場。
ミス・ヘアスプレーはシーウィードの妹・アイネスに決まり、番組は黒人差別の廃止を宣言する。
宝を持っての帰還
リンクとキスをするトレーシー。
映画『ヘアスプレー』のテーマ
もちろん『黒人差別撤廃』がテーマなのですが、それだけではありません。
中盤、トレーシーがウィルバーに「差別は消えるなんて信じてたあたしがおめでたかったんだわ。こうしたいと本気で思ったら親の元から巣立って闘うべきなのね」と話します。
『 夢を叶えるには信じるだけでなく
戦わなければならない 』
と気づくのです。
映画『ヘアスプレー』をさらに詳しく
ヒーローズジャーニーとは別に、もう一つ大切な要素が『三幕構成』。
三幕構成を用いてワンシーンずつみていきます。
第一幕
オープニング。
朝のボルチモアの街。トレーシーが目覚め、学校へ。
それぞれの曲・映像で何が説明されているかを見て行きます。
一曲目『Good Morning Baltimore』
オープニングにふさわしい明るくテンションの高い曲。
トレーシーの歌とダンスの能力、学校への移動、朝刊での黒人差別のテーマの提示、ボルチモアの治安の悪さ、トレーシーの有名になりたいという願望。
ボルチモアは1988年版の『ヘアスプレー』の舞台であり、その監督ジョン・ウォーターズの出身地。
1950〜60年代はアフリカ系アメリカ人公民権運動、つまり黒人差別撤廃運動が盛んだったのですが、ボルチモアは遅れており、冒頭の新聞記事に書かれた差別は実際にあったことのようです。
黒人の人口は今でも多く、アメリカで最も古い都市の一つでもあり、また南北戦争の舞台なので、この映画のテーマを表す土地です。
続いて学校の授業のシーンで、トレーシーの髪形のこだわりが示されます。
そして2曲目『The Nicest Kids in Town』。
『コーニー・コリンズ・ショー』と出演者、ペニー・エドナらの登場。
『ブラックデー』の提示をしています。
字幕では『ブラックデー』ですが、英語では『ニグロデー』と言っているのも差別を強調させています。
オーディションに挑戦するトレーシー。
3曲目『Miss Baltimore Crabs』
悪役ベルマ・アンバーの差別的偏見の説明、ベルマの過去・ミス・ボルチモアのプライド、オーディションの落選をしています。
オーディションに落選しましたが、遅刻したせいで居残り教室に行くことになり、シーウィードらと出会うことになります。
そしてさらにリンクの目に留まり……とチャレンジした結果が繋がっていきます。
4曲目『I Can Hear The Bells』
トレーシーの恋心、しかしリンクにはアンバーが……ティーンの恋心をユーモアたっぷりに歌い上げています。
続いて5曲目『Ladie’s Choice』
トレーシーが黒人との壁を突き破る存在、リンクも盛り上がり、コーニーもトレーシーを認めた、ということがわかります。
このシーンの設定は番組ではなく学校もしくはコーニーの企画なのですが、よくわからないです。
アメリカではダンスパーティーはよくあるんですかね。
トレーシーが番組のレギュラーに。第一ターニングポイントです。
トレーシーは髪の色を着けて進化しました。
第二幕
コーニーは番組の黒人差別廃止を考えており、それがボルチモア以外のアメリカの流れだと表しています。
黒人差別という問題の答えが、『コーニー・コリンズ・ショー』が黒人差別廃止をする、と具体的に設定されました。
堂々とヘアスプレーの模型も横切っていますね。
6曲目『The New Girl In Town』
ミス・ヘアスプレーは電話投票、トレーシーブーム、『ブラックデー』・メイベルの紹介、ペニーとシーウィードの出会い。
歌の「彼女」はトレーシーを表しています。
7曲目『Welcome To The 60s』
60年代は変化の時代、エドナのトラウマの解消、ピンキーの店への移動・契約の成立。
黒人差別からビッグサイズというモチーフを使ってテーマはさらに広がり、古い価値観・偏見からの変化や挑戦を表現しています。
黒人がなんだ!デカいからなんだ!ということですね。
リンクもトレーシーをともに居残り教室に行くことで、トレーシーの関係より強まっていると説明しています。
8曲目『Run And Tell That』
黒人としての誇り、黒人の現状、平等な世界を望む、アイネスの登場、シーウィード家への移動をしています。
僕が一番好きな曲。アイネスの歌と踊りが最高ですね。
9曲目『Big Blonde & Beautiful』
メイベルの歌・自信、アンバーの策略、エドナの誤解の解消。
少し間が空いて、ベルマとエドナも歌います。みな自分に自信を持っている母親たちです。
メイベルを演じたのはラッパーでもありR&B歌手でもあるクィーン・ラティファ。
スケールの大きさを感じる曲です。
喧嘩した両親を仲直りさせようとするトレーシー。
オーディションの後押しをしてくれたウィルバーに、自分の決意を話す。
賢者だったウィルバーのもとを離れる、つまりトレーシーの成長を表しています。
10曲目『You’re Timeless To Me』
仲直り、時代が変化しても変わらないものがある、それは夫婦の愛。
ウィルバー役クリストファー・ウォーケンの見せ場ですね。彼も舞台のミュージカル俳優出身です。
11曲目『I know Where I’ve Been』
テレビ局へのデモ、差別撤廃運動の困難さ・犠牲、それでも未来のために闘い続ける決意。
最もテーマを表す曲です。デモの中にいる白人のトレーシー、強調されています。
12曲目『Without Love』
リンク・ペニー・シーウィードの気持ち、愛のない人生のつまらなさ、ペニー・トレーシーの脱出を説明しています。
前の曲が重いため、ここでテンションを再び持ち上げます。
トレーシーがエドナにテレビ局に来るように頼む。
これが第二ターニングポイントです。
第三幕
13曲目『(it’s)Hairspray』
番組の開始、ベルマの警戒、ラストへの盛り上げですね。
そしてラスト14曲目『You Can’t Stop The Beat』。
一気にフィナーレへと向かっていきます。
変化は止められない、アイネスのミス・ヘアスプレー受賞、ベルマのクビ、黒人差別の廃止を宣言。
トレーシーの髪形はオリジナルとなり、流行を追うのではなく新しいトレーシーへと生まれく変わりました。
シーウィードとペニー、エドナ、メイベルとみなが歌い上げます。
ペニーが一度ためらったのは、アイネスの見せ場を邪魔したくなかったからですかね。
ベルマがクビと言われた時、感情を抑えて何事もないようにふるまう姿も、ベルマのプライドが表れていて素晴らしいです。
ラストシーン。
黒人差別の廃止のためにリンクをも諦めたトレーシーですが、トレーシーは大切な人と結ばれました。
トレーシーとリンクは白人同士のカップルですが、白人と黒人のカップルをメインにしなかったのは『ウエスト・サイド・ストーリー』に近い物語になってしまうからかな?と思います。
しかし出てこないのもテーマにそぐわないので、ペニーとシーウィードをサブストーリーにしたのでしょう。
トレーシー親子・ペニー親子・ベルマ親子と三人の白人の親子が出てきますが、それぞれ二人とも変化した・片方だけ変化した・二人とも変わらなかった、としっかり区別されていますね。
エンドロールでは15曲目『Come so far(got so far to go)』、16曲目『Mama,I’m a big girl now』(歌っているのは1988年版・舞台版・今作の主役を演じた3人!)、17曲目『Cooties』と最後まで楽しませてくれました。
さいごに
リンクの初登場の「リンク」の言い方、生放送でのコーニーのかっこつけ、エドナが最後に踊るときにベルマを挑発する。
などなど、好きな瞬間がたくさんある映画でした!
サントラも出ています!
次回は邦画。
沖田修一監督の『キツツキと雨』を研究します!
映画を家で楽しみたい人は、ぜひコチラの記事も読んでみてください。
家映画がもっと楽しくなるアイテムと工夫を紹介しています。
-fin-