映画『耳をすませば』の解説(ネタバレ有)雫と聖司の間にある「境界線」

こんにちは。
akira(@akira_movielabo)です。
今回の深掘り映画は『耳をすませば』です。

1995年公開の青春アニメーション作品。112分。
監督近藤善文、脚本宮崎駿。
原作はに1989年に漫画雑誌『りぼん』で連載していた柊あおい先生の同名漫画作品。
思春期。
自分の将来や恋について悩み、子どもから大人へと少しづつ変わっていく過程を描いたこの映画。
僕の中で、ジブリ作品の中でも1、2を争うほど好きな作品です。(もう一つは『魔女の宅急便』)
しかし研究してみると、甘酸っぱい青春だけの映画ではありませんでした。
映画『耳をすませば』のヒーローズジャーニー
それでは、ヒーローズジャーニーを見ながら研究していきましょう。

ヒーローズジャーニーって何?
という方はこちらの記事をどうぞ!!

この記事はネタバレも含むので、1度観てから一緒に考察していくのがおすすめです。
ジブリ作品は残念ながら、U-NEXTやPrime VideoなどのVODサービスでの配信がされていません。
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日常
東京・多摩地区。
読書が大好きな中学三年生・雫は、受験生にも関わらず夏休みの間もたくさんの本を読もうとしていた。図書館で借りた多くの本の読書カードに、「天沢聖司」という名前があり、どんな人物か想像する雫。
「カントリー・ロード」の和訳に挑戦している。
学校で借りた本の寄贈者が「天沢」ということに気づく。
冒険のいざない/賢者との出会い
雫と聖司が出会うが、雫はその少年が聖司と気づいていない。聖司は雫をからかい、むかつく雫。
図書館に向かう途中、猫・ムーンを追いかけているうちに、「地球屋」という不思議な店にたどり着き、「バロン」という人形を見つける。店主・西と出会う。
冒険の拒否/戸口の通過
新学期が始まる。
学校の教員から、寄贈者の「天沢」について聞く雫。天沢家の末っ子が、同じ学年にいると知って驚き、思わず走りさる雫。
試練、仲間、敵
テストに追われる雫。
クラスメイト・杉村から告白されるが、断る。自分の鈍感さ、振ったことに落ち込む雫。
「地球屋」に向かい、聖司と出会う。西は聖司のおじいちゃんだった。聖司が「地球屋」を案内する。
最も危険な場所へ接近
聖司はバイオリン職人を目指している。
聖司や帰ってきた西と「カントリーロード」を歌う雫。聖司の名前を初めて聞く雫。
聖司は一人前になるために、両親は反対しているが、中学卒業後はイタリアへ留学に行きたいと話す。
進路がはっきりしている聖司に対し、将来を何も考えていないと嘆く雫。
最大の試練
聖司はイタリア留学のための条件として、2か月の修行をすることになる。
自分を試し、やり遂げると言い切る聖司。
雫はさらに劣等感を抱いてしまう。
報酬/帰路
クラスメイトの夕子と話しているうちに、雫も自分を試すために物語を描くと決める。
「バロン」について物語を書きたい雫、許可を得るために西を訪ねる。西は「物語の最初の読者にしてくれるなら」と条件を出し、受け入れる雫。
聖司が修行へ向かう。お互いに、頑張ると話す聖司と雫。
執筆のために勉強が怠り、テストの成績が急落するが、両親は雫の決意を尊重し、雫の試しを許す。
復活
西に物語を読んでもらう雫。自分でも多くの不満が残る物語であり、自分の力不足を実感した雫だったが、西は立派に書き上げた雫を褒め讃える。泣く雫。
宝を持って帰還
聖司が帰ってくる。聖司に連れられ、朝日を見る雫。
聖司がプロポーズし、受け入れる雫。

『耳をすませば』のテーマ
初めて「地球屋」を訪れたとき、西は雫に大時計の仕掛けを見せてくれます。
エルフとドワーフの届かぬ恋を表現した仕掛け。この「届かぬ恋」というのがキーワードです。
聖司はすでに自身の将来について、バイオリン職人になりたいと明確な目標を持っています。一方の雫は、ただ漠然と高校に行く、くらいのことしか考えていませんでした。そのため、聖司に対して劣等感を抱いてしまいます。
この意識の違いが二人の間に境界線を張り、雫は「自分と聖司は違う世界の人間だ」思い込み、「届かぬ恋」にしてしまいます。しかし重要なのは、雫はそれを乗り越えようとする所です。
『 届かぬ恋、
果たしてそれは本当に越えられないのか? 』
雫はそれを自分で証明するのです。
「耳をすませば」をさらに詳しく
ヒーローズジャーニーともう一つ大切な要素、『三幕構成』を用いてワンシーンずつみていきます。
第一幕
タイトル。
雫の住む街・多摩の夜景。
雫が家に帰ってくる。
父・靖也が図書館のバーコード化について話し、雫は反対する。
借りた本の図書カードに「天沢聖司」という名を見つける。どの図書カードにも書かれたその名前。どんな人物か想いを馳せる。
この映画は街の風景が多く描かれています。
雫は映画を通して、世界は広いこと、そして同時に世界の厳しさ、自分の未熟さを学んでいくので、それを表していると思います。
また、同じくどの時間帯の風景なのかも重要です。
オープニングの夜景はロマンティックな印象を与えますね。
そして代表曲「カントリー・ロード」。
宮崎駿と近藤善文は、本作の目的に「都会生まれの人間にとってのふるさとを描く」ということがあったそうです。
駅前の描写や団地の隣人との会話など、細かな描写がそれを表していると思います。
靖也と雫の会話で、靖也は図書館に勤めていること、雫はよく図書館に通う=読書が好きな少女、とわかります。
家の中にもたくさんの本と資料。母・朝子もワープロを使いたいと話し、文字にかかわるものが多く登場させています。
家族たちは、どのシーンでも何かしらの作業や勉強に追われています。
雫はまだなにも考えておらず、思うままに生きていますが、周囲は忙しい。
その対比を常に表現しています。
シーンの最後に「天沢聖司」という名前を印象付けます。
このオープニングは映画のプロローグの役割をしていますね。
名前の持つ力も重要です。
「月島雫」「天沢聖司」。
名前だけでどのようなイメージを持つでしょうか。
僕は綺麗で純粋で無垢なイメージを持ちました。
例えば、もしそれぞれの名前が「赤木晴子」「桜木花道」だったら。
晴子は明るく元気いっぱい、花道はなにか大物でやらかしそうなイメージですよね。
どちらもバスケットボール漫画の『スラムダンク』の登場人物で、そのキャラにぴったりの名前であり、『耳をすませば』の世界には似合わないですね。
名前だけでイメージを持ってしまうものなので、そのキャラクターに合った名前をつけることはとても大事なのです。
また、雫の姉は汐(しほ)と書き、二人とも水にかかわる名前です。
靖也と朝子がどういう意味を込めて名付けたのか、その背景もしっかり考えたからこその名前だと思います。
学校でクラスメイトの夕子・杉村と出会います。
ふたりは紫外線を気にしたり、野球部だったり、普通な人です。
雫、聖司は二人とも特殊な人物なので、一般的な高校生の代表として二人を出していると思います。
そして本を通じて、雫と聖司は初めての出会いをします。
もちろん、雫は聖司に対して最悪な印象を持ちます。恋愛ものの王道ですね。
聖司はこの時、雫の本と知って読んだのか、振り返って雫のものと知ったのかわかりません。
知っていたらかなりの計算高い男。
知らずに振り返ったら好きな人の本だった、ドキドキの気持ちと裏腹に「コンクリートロード」をいじってしまう。そのあと後悔したりして。
後者のほうを願います。
第二幕
杉村との告白シーン。
始まりは雫と杉村との関係は、雫が上の立場におり、杉村を責めます。
しかし杉村の告白で、立場が逆転。逃げ出す雫。
杉村は止め、答えを求めます。
ワンシーンの中で逆転のうねりがあり、面白い場面です。
立ち位置にも注目してみます。
冒頭、雫は杉村よりも高いところに座り、見下ろす形です。
しかし杉村が告白し、杉村が雫に迫ると、杉村が上から見下ろし、雫が見上げるような構図に変化しています。
二人の立場を、映像としても表現していますね。
前のシーンで、雫は靖也に「地球屋」と出会った後に聖司にいじられてむかつく気持ちを、物語の文章のように語っていますが、ここでは自分の気持ちを正確に言えません。
その後の帰り道でも、いつもなら犬にも話しかける雫ですが、無視します。
どちらも前の行動との対比で雫の動揺を描き、いつもの雫ではないことを表していますね。
そして落ち込む雫を立ちなおさせる役目を担うのは、もちろん聖司です。
「地球屋」で聖司と出会うシーン。
ムーンに対して愚痴をこぼす雫。
大人になるとは、あきらめたり現実を知ること。その心の変化を実感してきています。
この時点では、「届かぬ恋」に対してあきらめの考えを持っている雫です。
そして聖司と出会うと、いつものように物語のような描写を使って話します。
「地球屋」の裏側も、街を見渡せるようになっていますね。
その帰り道、聖司からバイオリン職人になりたいと話し、雫は自分に劣等感を抱きます。
ここから、雫の劣等感を際立たせるシーンが続きます。
雨の朝、走る雫のシーン。
杉村と会います。気まずい二人ですが、杉村から挨拶し、そして雫を置いて先に向かいます。
その後の教室でも、杉村は自分から夕子にしっかりと謝ります。
杉村のほうが大人な行動をして、雫の未熟ぶりを表しています。
そしてさらに屋上のシーンへと続き、聖司が二か月の修行が決まったと話し、雫を追い込みます。
雫の涙には様々な解釈があると思います。聖司が夢に向かううれしさもあり、自分の未熟さに悔しさのようなものとも取れます。
複雑で矛盾な感情も、観客を引き付ける大事な要素です。
夕子の部屋のシーン。
聖司との意識の違いに劣等感を抱く雫ですが、夕子にはその悩みはわかりません。確かに、好きならば付き合えばいい話です。
しかしすでに僕たちは雫の視点で物語を見ているので、ここで簡単に付き合ってもそれで物語が完結するとは思えなくなっています。
そして雫は自ら物語を描くと決めます。
執筆するという行為。
新しいものを生み出すことはとても苦しいことですが、端からみたらただ悩んで書いているだけであり、映像で表す映画には相性の悪い行為です。
そのため「人とぶつかり合うこと」を障害として描いています。
作品内で描かれた障害
- 西とバロンについて交渉する。
- 西に読んでもらうという壁。
- 靖也と朝子から許しをもらう。
第三幕
雫の書いている物語は、雫の心情を表しています。
バロンとともに空を飛ぶシーンは、どんな壁も乗り越えていくことを。
洞窟の中、宝石を見つけるが、鳥の死骸だったシーンは、自分の物語が駄作であると感じていることを示しています。
それでも物語を描きあげた雫、西に読んでもらいます。
夕暮れの街をみながら待つ雫。ここでの風景は、世界は広すぎる、のように雫には見えているのではないでしょうか。
西が雫にバロンとの出会いについて話します。
このエピソードは、戦争によって引き裂かれた「届かなかった恋」です。
「届かぬ恋」がある、ということを示しています。
テーマについて良い面、悪い面といろいろな視点から描くことで、より厚みのある物語になります。
そして聖司と再会し、朝日を観に行きます。
途中にある急な坂は人生の困難を表しています。聖司は雫にはなにもさせずに乗り越えようとしますが、それはとても難しいことです。
一方の雫は、荷物だけは嫌、役に立ちたいと聖司を手伝います。
今後の二人はこのようにお互い助け合いながら人生を歩んでいく、と表現していると思います。
そしてラストシーン。
オープニングは夜景でしたが、ラストは反対に朝日のシーンで締めくくります。
朝日は始まりを意味します。
映画はここで終わりますが、二人にとってはここからまた始まるのです。
いままで聖司のことを「聖司くん」と呼んでいた雫が、ここで初めて「聖司」と呼び捨てにします。
雫に自信がつき、聖司と対等の立場になったことを表しています。
「届かぬ恋」と思ったけども、雫は乗り越えたのです。

さいごに
「2人はその後どうなったか」というアンケートがあります。
アンケートの結果は、「別れる」が多数派でした。
このアンケートが意味するものもまた気になるところですね。
次回は一気にテイストを変えて、連続猟奇事件を扱った傑作スリラー『セブン』を研究します。

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-fin-