映画『ミリオンダラー・ベイビー』の解説(ネタバレ有)命よりも大事な、人の「尊厳」を描いた愛の物語

こんにちは。
akira(@akira_movielabo)です。
今回の深掘り映画は『ミリオンダラー・ベイビー』です。

2004年公開のスポーツドラマ映画。
監督クリント・イーストウッド、脚本ポール・ハギス。133分。
アカデミー賞作品賞・監督賞・主演女優賞・助演男優賞を受賞しました。
さらに脚本を描いたポール・ハギスは翌年に『クラッシュ』でアカデミー賞作品賞と脚本賞を受賞。
脚本を手掛けた作品が2年連続で受賞するのは史上初の偉業でした。
尊厳死を描いた本作はヒットしましたが、多くの論争を呼んだようです。
映画『ミリオンダラー・ベイビー』のヒーローズジャーニー
それでは、ヒーローズジャーニーを見ながら研究していきましょう。

ヒーローズジャーニーって何?
という方はこちらの記事をどうぞ!!

この記事はネタバレも含むので、1度観てから一緒に考察していくのがおすすめです。
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※この記事の情報は、2023年1月時点のものです。最新の配信状況はお使いいただくサービスにてご確認ください。
日常世界
ボクシングトレーナーをしているフランキー。カットマンとしても優秀だ。
冒険への誘い/冒険の拒否
中年女性のマギーがトレーナーになって欲しいと頼むが、断るフランキー。
賢者との出会い
ジムの管理人をしているスクラップ。マギーには筋があると話すが、マギーはボクシングを始めるにはすでに歳を取りすぎている。再び断るフランキー。だが、マギーは諦めない。
戸口の通過
遅くまで一人で練習を続けるマギーに折れたフランキー。マギーにボクシングを教え始める。
試練、仲間、敵
みるみる成長していくマギー。マギーの為にと自らセコンドになるフランキー。
最も危険な場所への接近
同じ階級では敵無しになってしまったマギー。
最大の試練
マギーの階級を上げるフランキー。快進撃を続け、外国のチャンピオンも倒すマギー。
報酬
世界チャンピオンのビリーからの挑戦を受けるフランキー。
帰路
ビリーとの試合。ラフプレーを使うビリー。勝利目前で反則行為に遭い、首を強打する。
全身麻痺になってしまったマギー。
復活
マギーは尊厳死をフランキーに求める。拒むフランキーだが、マギーは自殺をも試みる。
悩み苦しむフランキーだったが、覚悟を決め、マギーを殺す。
宝を持って帰還
フランキーの物語をフランキーと疎遠になったフランキーの娘・ケイティに手紙を送るスクラップ。
フランキーはマギーに教えてもらった店で、好物のレモンパイを食べている。

映画『ミリオンダラー・ベイビー』のテーマ
デンジャーという不思議なキャラクターがテーマを読み解く鍵になります。
そのデンジャーが登場するシーン。
「人は言う、ボクサーはハートが大事だ、と。フランキーは言う。ハートだけのボクサー? 負けるに決まってる」
とナレーションが入り、
「ハートだけの男はこの男だ」
とデンジャーが紹介されます。
デンジャーはボクシングも全く出来ず、中盤でショレルに袋叩きに遭います。しかしラストで再びジムに現れ、ボクシングを続ける。
まさに彼はとてつもなく強いハートの持ち主であり、異常にタフ。
しかし、敗北から立ち上がれば人生は幸せになるのでしょうか。このままの彼は幸せになれるのでしょうか。
マギーの未来は、努力を続ければ世界チャンピオンに挑む姿以上のものになるのでしょうか。
『 タフだけでは足りない 』
ジムにあるフランキーの部屋にはこの言葉が書かれており、フランキーとマギーが最初に出会ったシーンでもフランキーは語ります。
フランキーもマギーも結果として敗者となりましたが、2人に悔いはありません。
きっぱりと散る。諦めることが幸せになることもある。すべては逆なのです。
映画『ミリオンダラー・ベイビー』をさらに詳しく
ヒーローズジャーニーともう一つ大切な要素、『三幕構成』を用いてワンシーンずつみていきます。
第一幕
オープニング。
モノクロの映像から、音楽、カラーの本編へ。一つ一つ情報を加えて観客を映画の世界に引き込みます。
映画を通じてスクラップのナレーションが多用されています。
主人公はフランキーですが、視点はスクラップ。少し俯瞰的に物語を見る、という構造になっています。
フランキーの職業はトレーナーでもあり、カットマンでもあり、セコンドもやる。すべてを仕事中のフランキーを見せることで説明しています。
そしてシーンの最後に「ボクシングは尊厳のスポーツ」と、重要な言葉を残します。
スクラップはフランキーにマギーを与える賢者の役割でもあり、フランキーと対立するボクサーの立場からの考えを持つキャラクターでもあります。
ウィリーとフランキーが帰るシーン。
車をバックさせながらタイトル戦を断ったことを伝えます。
会話だけでなくキャラクターたちに動きをつけ、さらにフランキーはバックの出来ない車に乗っている。つまり裕福ではないということも説明しています。
神父の描かれ方も悪意に満ちていて面白いですね。この映画では、神父や神の教えは全く助けになりません。
フランキーの元を去ったウィリーは世界チャンプになる。
そしてフランキーはマギーにボクシングを教えます。ここが第一ターニングポイント。
フランキーとウィリーの話は終わり、フランキーとマギーの物語が始まります。
第二幕
ここでは、マギーの成長・二人の関係の発展、そして世界戦までを描きます。
マギーをサリーに任せるシーン。マギーはフランキーの家族について質問します。
スクラップの反応の通り、それはフランキーの触れてはならない側面です。
しかしマギーは女性であり自分の家族を愛しているので、踏み込んでしまう。フランキーはこれ以上自分に近づかせないようにサリーに任せました。
しかしサリーはマギーを利用としたために、フランキーは自らセコンドになります。
マギーは亡くなった自分の父をフランキーに、フランキーはケイティをマギーに重ね合わせ、二人の関係が深くなっていきます。
スクラップはジムの道具などにはお金を使いますが、自分の靴下は穴が開いても新しいものを買いません。一方、フランキーはお金をあげてでも買ってもらいたい。
彼自身の償いの心が細かい所にも現れています。
ウィリーと同様、マギーにチャンピオンから挑戦が来ても、フランキーは簡単には挑戦させません。
負けること、そしてなによりけがをして再起不能になることを一番恐れています。
第二ターニングポイント、マギーが全身まひになってしまう。直接フランキーに起きたことではないですが、一心同体である二人の運命が大きく変わる出来事です。
第三幕
これまでのスクラップの語りはケイティにあてた手紙だったことがわかります。
そしてスクラップは姿を消したフランキーに心のやすらぎを見つけてくれることを願っています。
マギーの病室のシーンでは、フランキーは本とレモンパイをかたわらに小屋に住むのが想像できる、マギーがレモンパイを焼く、とやりとりがあります。
この時点では二人は共に生きていくつもりだったのでしょう。
しかしマギーは安楽死を求め、フランキーは実行しました。
ラストシーン。
フランキーはマギーに教えてもらったレモンパイの店にいます。
レモンパイを初めて食べたシーンで、フランキーは「このまま死んでもいい」と絶賛していました。
マギーを想って店を訪れたのか。
もしかしたら、「最後の晩餐」としてレモンパイを食べているのかもしれません。

さいごに
シンプルな構成、光と影の演出、そして音楽もまた素晴らしい。音楽を携わったのも、クリント・イーストウッド本人です。
次回はビリー・ワイルダー監督のミステリー映画『情婦』を研究します。

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