映画『タリーと私の秘密の時間』の解説(ネタバレ有)大きな仕掛けをうまく隠した、細かくリアルなディテール。
こんにちは。
akira(@akira_movielabo)です。
今回の深掘り映画は『タリーと私の秘密の時間』です。
2018年のコメディ・ドラマ映画。
監督ジェイソン・ライトマン、脚本ディアブロ・コーディ。95分。
ジェイソンとディアブロのタッグは『JUNO/ジュノ』『ヤング≒アダルト』と同じであり、ジェイソンはそれぞれの作品について、
それぞれの映画の主人公は人生においての時間軸を把握できていないんだ。『JUNO/ジュノ』では早く大人になりすぎた少女を描いていて、『ヤング≒アダルト』では大人になることが遅すぎた女性を描き、今作では親になったことで強制的に成長しなければならない女性を描いているんだよ
と語っています。
ジャンルはコメディとなっていますが、とてもそうとは思えない恐ろしい映画に見えてしまいますね。
主演のシャーリーズ・セロンは役作りのために22キロ増量したようです。
すごいですね。
映画『タリーと私の秘密の時間』が観られる配信サービス
この記事はネタバレも含むので、1度観てから一緒に考察していくのがおすすめです。
下の表から自身の使っているサービスで観られるか確認してみてください。
配信状況
サービス | 配信状況 | 配信種別 |
---|---|---|
U-NEXT | ◯ | 定額 ※1 |
Prime Video | ◯ | レンタル ※2 |
NETFLIX | × | ー |
Hulu | ◯ | 定額 ※1 |
Disney+ | × | ー |
TSUTAYA DISCAS ※3 | ◯ | 定額 ※1 |
※1 定額は毎月支払うサービス利用料内で観ることができる見放題作品です。
※2 レンタルは見放題作品に含まれておらず、別途レンタル料が発生します。
※3 TSUTAYA DISCASは宅配レンタルサービスです。
この記事の情報は、2023年12月時点のものです。最新の配信状況はお使いいただくサービスにてご確認ください。
個人的にオススメのVODサービスは、取り扱っている作品数が段違いなU-NEXT。
U-NEXTはトライアル期間が1ヶ月あるので、使い心地を自分で実際試せます。まだ使ったことがない人は、ぜひこの機会に試してみてください。
他にもオススメの動画配信(VOD)サービスを選ぶ基準別に紹介しているので、使うサービスに悩んでいる人や、気になる人はこちらの記事をご覧ください。
映画『タリーと私の秘密の時間』のヒーローズジャーニー
それでは、映画の流れがヒーローズジャーニーの法則に沿って進んでいくのかみていきましょう。
ヒーローズジャーニーって何?
という方はこちらの記事をどうぞ!!
日常世界
二人の子ども、ジョナとサラを持つマーロ。来週3人目も生まれる予定だ。
ジョナは知的障害の可能性があり、校長から転校を薦められる。すでにマーロの心は限界に近づいている。
冒険への誘い
兄からナイトシッターを雇うように薦められる。
冒険の拒否
夫・ドリューと話すマーロ。見知らぬ人に赤ちゃんを頼むのは嫌だ。
戸口の通過/賢者との出会い
3人目が生まれ、さらに育児が多忙となる。精神的に追い詰められていくマーロ。ナイトシッターのタリーを雇う。
試練、仲間、敵
優秀なタリーのおかげで充実した生活を取り戻すマーロ。
最も危険な場所への接近
ドリューが出張でいなくなる。タリーともさらに仲良くなるマーロ。
最大の試練
タリーがマーロの代わりにドリューの夜の相手をする。
報酬
ドリューは昨夜の出来事に満足している。兄夫婦もシッターを雇ったことに満足している。
帰路
タリーとマーロが夜のNYへ遊びに向かう。
タリーがシッターを辞めたいと話し、若いタリーに嫉妬をぶつけるマーロ。その帰り、居眠り運転をして事故を起こしてしまうマーロ。
復活
病院に運ばれたマーロ。
タリーはマーロが作り出した幻であり、マーロは極度の疲労と睡眠不足に陥っていたことを知るドリュー。ドリューはマーロを気に掛けていなかったと謝り、自分に完璧な母親像を求めていたマーロが救われる。
宝を持っての帰還
ドリューとともに家事をするマーロ。
映画『タリーと私の秘密の時間』のテーマ
2人の子供の育児に追われ、すでに限界を迎えているマーロ。さらに新たに3人目が生まれ、それでもなお完璧な母親になろうとするマーロが生み出したのがタリーでした。
『 完璧な母親が完璧なのか? 』
これがテーマです。
タリーはマーロの育児に対する極限状態が生み出した存在であると同時に、かつての若い頃の自分でもあるという点が素晴らしいですね。
母親の大変さについて描きつつ、母親になることで自分を失ってしまうという内面的なテーマも描いています。
家族にとって母親はとても大事なのですが、マーロにも自分の人生があり、自分を保ち続けることもとても大事なのです。
映画『タリーと私の秘密の時間』をさらに詳しく
ヒーローズジャーニーとは別に、もう一つ大切な要素が『三幕構成』。
三幕構成を用いてワンシーンずつみていきます。
第一幕
オープニング。
ジョナをブラッシングするマーロ。家族、そして親子・育児の物語であり、この家の特徴を端的に表したブラッシングという不思議な行為を見せます。マーロが妊婦であることも見ればわかりますね。観ればわかりますが、ラストの伏線でもあります。オープニングとラストを合わせるブックエンドという手法ですね。
続いて夫・ドリューとの会話でドリューの紹介と、今後の展開の兄夫婦との食事を提示します。
学校の駐車場のシーン。ジョナの特徴とマーロの精神はすでに限界が近いことを見せます。サラに校長からジョナには特別な講師を雇った方がいいと言われ、経済的にもマーロを追い詰めています。映画はオープニングから崖っぷち、とすると面白くなります。
カフェでマーロとヴァイと出会うシーン。ヴァイとはかつてのルームメイトであることがのちにわかりますが、この時点では久しぶりの再会にもかかわらずそっけない友達に見えます。独身の女性と妊婦では話すことがない、ということを見せたかったのでしょうか。マーロの孤独感も漂わせます。
兄夫婦の家を訪ねたシーン。兄夫婦はマーロのお腹や子供たちのことしか話さず、マーロ自身の話題は一切描かれません。これもマーロはもはや母親としてしか見られていない、マーロ自身に興味がないということを見せています。
ヴァイという独身の女性、兄夫婦という裕福な家庭をマーロにはない肩書きを持った存在をぶつけることでマーロの状況を炙り出しています。
ミアが生まれ、さらに多忙となるマーロ。このモンタージュはとても上手いと思いました。
ナイトシッターに連絡するマーロ。これが第一ターニングポイントです。
実際に電話をする姿を映さなくても、連絡先を見ただけで連絡したように観客は思ってしまうのが映画の魔法ですね。
第二幕
ナイトシッターを雇ったことをドリューに伝えるマーロ。
これまでしていたルールが出来ない、そして牛乳が溢れても動じないという疲れきったマーロがとてもリアルですね。サラのセリフもグサリと刺さります。そんなことには全く気がつかないドリューもまた問題ですが……
そしてついにタリーの登場。マーロとの一連の会話でタリーの優秀さが存分に滲み出ています。
次第に仲良くなるマーロとタリー。他の人とは話さないサラやジョナについて語るようにもなります。そしてタリーはマーロの個人的な話題へと入っていく。
タリーは過去の自分であり、自分が自分に問いかけている、という意味ですね。会話にしているおかげで自然にテーマを語っています。
サラがマーロの髪を洗っているシーンではマーロが年老いたキャラクターみたいと話したり、ランニングシーンでは女性が引いている顔をしています。ラストから振り返るとマーロの顔つきがすごいことになっていると表現していますが、まあ気づかないですよね。
マーロの前でタリーがコスプレをしてドリューとセックスするシーン。マーロとタリーの関係だから出来ると妙に納得してしまうシーンです。また他の映画で見ないオリジナルなシーンですね。
マーロの頭の中にだけ存在するキャラクター・イマジナリーフレンドのタリーはマーロの前でしか現れません。なので映画の中で第三者に会わないため違和感に気づく場合も多いのですが、このシーンで見事にカモフラージュしていますね。マーロ視点の映画なので違和感にも気づきません。
タリーとブルックリンへ向かう。
これが第二ターニングポイントです。
第三幕
タリーがルームメイトと喧嘩したというのも、おそらくかつてのヴァイと実際にあったことでしょう。別れ際に喧嘩をしたようで、ヴァイと会ったシーンに繋がっていくのですね。
ブルックリンへ向かう車内。タリーが殺されるというセリフもマーロの肉体に限界が来てタリーの存在が発覚し、治療で自身が消えてしまうことの予感ですね。
タリーに辞めると言われ、タリーに対して、つまり若い自分に対しての思いを曝け出すマーロ。そんなマーロを励ますのも若いマーロ自身です。
病院でタリーとはマーロの旧姓だとわかります。これだけで全ての真実がわかり、物語において名前はとても重要なものだとわかりますね。
全てを知ったドリューは謝ります。ドリュー自身にとっても変化の時であり、二人にとって一番大事なことがなんなのかと気づきます。
再びジョナのブラッシングシーン。二人の心が通じ合い、ラストシーンへ。
マーロとドリューで食事を作る。ありふれた、しかしやっと手に入れた幸せがそこにはあります。
さいごに
イマジナリーフレンドのタリーという大きなひねりを使い、育児の大変さを丁寧に鮮明に描ききったとてもよくできた映画でした。
セロンの存在感もとてつもなかったですね。
次回は、フィル・ロード、クリストファー・ミラー監督の『くもりときどきミートボール』を研究します!
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