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映画『さよなら。いつかわかること』の解説(ネタバレ有)ロードムービーは心の変化を描くもの

さよなら。いつかわかること
akira
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こんにちは。
akira(@akira_movielabo)です。

今回の深掘り映画は『さよなら、いつかわかること』です。

さよなら。いつかわかること1

2007年に公開された人間ドラマ映画。
監督・脚本ジェームズ・C・ストラウス。85分。

2007年サンダンス映画祭で観客賞・脚本賞を受賞、2008年ゴールデングローブ賞では音楽賞・楽曲賞にノミネートされました。

音楽を担当したのはクリント・イーストウッド。彼らしいシンプルで繊細な音楽が、映画のドラマをより一層引き立てています。

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映画『さよなら。いつかわかること』のヒーローズジャーニー

それでは、ヒーローズジャーニーを見ながら研究していきましょう。

ヒーローズジャーニーって何?

という方はこちらの記事をどうぞ!!

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この記事はネタバレも含むので、1度観てから一緒に考察していくのがおすすめです。

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日常世界

スーパーの店長をしているスタンレー。妻のグレイスはイラク戦争に出征しており、今は長女のハイディ、次女のドーンと暮らしている。戦地に向かったグレイスを誇りに思っているスタンレー。

冒険への誘い

グレイスが戦死したと告げられるスタンレー。呆然とし、仕事にも行かない。

冒険の拒否

娘たちに伝えようとするが、言えないスタンレー。グレイスの声で録音された留守番電話に電話し、グレイスにメッセージを残すスタンレー。

賢者との出会い

ドーンは決まった時間にアラームをセットし、鳴ったらグレイスとお互いを想うと約束し実行している。

戸口の通過

娘たちが行きたがっているテーマパークに行くと決めるスタンレー。ドーンは喜ぶが、ハイディはいつもと違うスタンレーを疑問に思う。

試練、仲間、敵

数日かけて車で向かうスタンレー一家。ハイディは最近ずっと眠れていない。

最も危険な場所への接近

祖母の家に立ち寄るスタンレーたち。祖母は不在で、叔父のジョンがいた。戦争を批判するジョンに、スタンレーは苛立ちを覚える。ジョンと娘たちが外食している時、一人号泣するスタンレー。ハイディがスタンレーがなぜ兵士を辞めたのかと尋ね、目が悪いため辞めさせられたと話すジョン。

最大の試練

グレイスの死を知るジョン。娘たちに伝えずテーマパークに行こうとするスタンレーを怒るが、スタンレーは激昂する。スタンレーを抱きしめるジョン。スタンレーたちは祖母に会わずに出発する。

報酬

ホテルで一泊するスタンレーたち。ハイディはいつも眠れず歩き回っていると知り、スタンレーは自分を起こして話そうと頼む。お互いにグレイス不在の苦悩を共有する二人。深夜、ぐっすりと眠るハイディ。

帰路

ドーンはグレイスが恋しいと呟く。抱き合うスタンレー一家。スタンレーは再び家の留守番電話に電話する。出征前、不機嫌だったのは自分が戦争に行けなかったのが恥ずかしかったと吐露し、謝る。そしてどう娘たちに言えばいいのかと嘆くスタンレー。スタンレーの嘘に気づき、何かを隠していると思うハイディ。

復活

テーマパークに着き、楽しむスタンレーたち。ハイディはグレイスの死を知ってしまうが、スタンレーには聞き出せずにいる。あっさりと帰ろうと言う娘たち。帰り道、海沿いに車を止め、娘たちにグレイスの死を話すスタンレー。

宝を持って帰還

グレイスの葬式を終える。グレイスの墓前。アラームが鳴り、グレイスを想うスタンレー一家。

映画『さよなら。いつかわかること』のテーマ

グレイスの死を娘たちに話せないスタンレー。同時にグレイスの死を受け入れられないスタンレーの心の内をも表しています。

映画の中での主題は母の死を娘たちに言えない父の苦悩、と言うことですがその問題を引き起こした根本的な理由は戦争。

戦争反対

この映画はれっきとした反戦映画なのです。

映画『さよなら。いつかわかること』をさらに詳しく

ヒーローズジャーニーともう一つ大切な要素、『三幕構成』を用いてワンシーンずつみていきます。

第一幕

オープニング。グレイスの留守番電話のメッセージ。自身が勤めるスーパーで円陣を組むスタンレー。

仕事が始まる前に円陣を組む、スタンレーの職業、真面目で厳しく仕事熱心な性格が一発でわかるアイディアです。留守番電話の声がグレイスというのは伏線ですね。メッセージの内容から遠く離れている、雑音から戦地?と察することができます。あからさまに言うと不自然に見えがちです。グループセラピーは次のシーンの説明にもなっています。

続いてグループセラピーのシーン。グレイスが出征しているとはっきりします。一人だけの男、周囲にはわかってもらえない、孤立している主人公を描いています。

帰宅したスタンレー。戦争に関するニュースを禁止していることで、この家族の抱えている問題は映画の前からすでに始まっていることがわかります。観客は物語の途中から入るととてもスピーディーな展開に一気に引き込まれるものです。リアリティも増しますね。

食事のシーンで、担任の妊娠、眠れないハイディ、ドーンのアラームと多くの伏線が自然と張られます。仲が悪い訳ではないがいいという訳でもない。絶妙な雰囲気の家族がうまく描かれています。

グレイスの死を告げられるスタンレー。多くの映画で自分のガンや愛する人の死などとてつもなく大きな問題を伝えられるシーンがありますが、それぞれ個性が出て興味深いですね。

家のまえに置かれたシチュー。近隣が朝の出来事を見て気を遣ったものと思いますが、手紙を読ませず食べさせない、グレイスの死を言い出せないスタンレー。それは同時に自身もグレイスの死を受け入れなければならず、まだ認められないということを表しています。

娘たちとテーマパークに行くと決めるスタンレー。これが第一ターニングポイントです。

自分も妻の死を受け入れ、娘に話す。内面と外面的なストーリーが合致した素晴らしい構成です。

第二幕

ハイウェイを走る一台の車。一瞬のシーンですが、スタンレー一家の社会と外れた道と孤独を表しています。

留守番電話に電話するスタンレー。これから何度も登場しますが、これはスタンレーの内面を表現する相手がいないため留守番電話という小道具を使って表現しています。見知らぬ人や外部の人に言えない話ですからね、留守番電話はいい小道具となっています。録音されているのがグレイスの声というのも、スタンレーのグレイスの恋しさも同時に表しています。

叔父のジョンと会い、ハイディはスタンレーが兵士を辞めた理由を知る。ジョンは作中に登場する唯一スタンレーとぶつかり合えるキャラクターですね。スタンレーの政治的考えや厳しい父親として支配している家族の姿を炙り出します。ドーンのアラームのことも知らない外部の人間だから自然と聞くことができますね。

この旅でスタンレー一家は普段言えなかったそれぞれの過去や悩み、心境を知り家族としての絆を強くしていくのです。映画とは非日常、これまでと違う世界を描くものだと再認識させてくれます。

ホテルでのタバコの一件。スタンレー流の育児方法は微笑ましいですね。

ピアスを開けたスーパーのシーン。おもちゃの家の中で抱き合うスタンレー一家。グレイスのいない家族の寂しさを分かち合う行為をおもちゃとはいえ家の中ですることで家族の絆をとても強調しています。祖母の家には玄関から入れなかったスタンレー。ドーンの家の中に入る、という行為にも外部の人間と家族との差を表しているように思えますね。家の中に入ると人の心に入るという行動がリンクしています。

深夜の車内。スタンレーとハイディがテレビの戦争批判について話します。正しいと信じなければ自分達のやっていること、グレイスのやっていることが無駄になってしまう。スタンレーは自分達を認めるために信じざるを得ない。戦争被害者の悲しい心理です。

テーマパークに向かう。これが第二ターニングポイントです。

第三幕

テーマパークを楽しむスタンレー一家。しかしあっさりとハイディとドーンは帰ります。ハイディはグレイスの死を知りましたが、何も聞けません。楽しいと思いつつ、足りないものがこの家族にはあります。そしてそれはもう二度と戻ってきません。

浜辺にてグレイスの死を伝えるスタンレー。このような大事なシーンでは海や湖などの近くが選ばれやすいのも人間のイメージの力なのでしょうか。

グレイスの葬式を終え、墓前で手を取り合いグレイスを想うスタンレー一家。テーマパークの旅を経て同じ場所に帰ってきましたが、そこはもう以前とは全く違うグレイスのいない世界。しかし旅を経て強くなったスタンレー一家はお互いを助けながらきっと生きていけるはずです。

さいごに

愛する人の死という悲しみとともに家族の絆を描いたストーリー。

ロードムービーはただキャラクターが移動していくだけでなく、しっかりとキャラクターの変化と成長も見せなければなりません。それを丁寧にしっかりと描いた素晴らしい映画でした。

次回はU-NEXTPrime Videoで配信中、アルフレッド・ヒッチコック監督の傑作『サイコ』を研究します!

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-fin-

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akira
1990年生まれ。 映画を、物語・シナリオの側面から深く「面白さ」を知ってもらうために「movie labo」をスタート。 生粋のリバプールファン。
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