映画『テルマ&ルイーズ』の解説(ネタバレ有)楽しい旅行になるはずが…女性の解放を描いた傑作ロードムービー
こんにちは。
akira(@akira_movielabo)です。
今回の深掘り映画は『テルマ&ルイーズ』。
1991年公開のドラマ映画。
監督リドリー・スコット、脚本カーリー・クーリ。129分。
第64回アカデミー賞に6部門ノミネートし、脚本賞を受賞。
第49回ゴールデングローブ賞でも脚本賞を受賞しました。
『90年代の女性版アメリカン・ニューシネマ』と評され、当時下積み生活をしていたブラッド・ピットの出世作とも言われています。
映画『テルマ&ルイーズ』が観られる配信サービス
この記事はネタバレも含むので、1度観てから一緒に考察していくのがおすすめです。
下の表から自身の使っているサービスで観られるか確認してみてください。
配信状況
サービス | 配信状況 | 配信種別 |
---|---|---|
U-NEXT | ◯ | 定額 ※1 |
Prime Video | ◯ | 定額 ※1 |
NETFLIX | × | ー |
Hulu | × | ー |
Disney+ | × | ー |
TSUTAYA DISCAS ※3 | ◯ | 定額 ※1 |
※1 定額は毎月支払うサービス利用料内で観ることができる見放題作品です。
※2 レンタルは見放題作品に含まれておらず、別途レンタル料が発生します。
※3 TSUTAYA DISCASは宅配レンタルサービスです。
※4 Prime VideoのスターチャンネルEXは、別途月額利用料が発生します。
この記事の情報は、2023年12月時点のものです。最新の配信状況はお使いいただくサービスにてご確認ください。
個人的にオススメのVODサービスは、取り扱っている作品数が段違いなU-NEXT。
U-NEXTはトライアル期間が1ヶ月あるので、使い心地を自分で実際試せます。まだ使ったことがない人は、ぜひこの機会に試してみてください。
他にもオススメの動画配信(VOD)サービスを選ぶ基準別に紹介しているので、使うサービスに悩んでいる人や、気になる人はこちらの記事をご覧ください。
映画『テルマ&ルイーズ』のヒーローズジャーニー
それでは、映画の流れがヒーローズジャーニーの法則に沿って進んでいくのかみていきましょう。
ヒーローズジャーニーって何?
という方はこちらの記事をどうぞ!!
日常世界/賢者との出会い
ウェイトレスとして働くルイーズと、専業主婦のテルマ。二人は週末に友人が持っている山の別荘へ旅行に向かう。
冒険への誘い
旅を楽しもうと途中で店に入り、酒を飲む二人。
二人とも恋人や夫に不満を持っており、それを忘れるための旅行だ。が、そこで出会った男にレイプされかけるテルマ。
ルイーズが助けるものの、女性をバカにし続けたその男を殺してしまう。
冒険の拒否
警察に行っても理解してもらえないと考えるルイーズ。
テルマはパニックだ。
戸口の通過
逃げるために恋人・ジミーに連絡をするルイーズ。
事情は話せないが、協力してくれるジミー。警察が捜査を始める。
試練、仲間、敵
ジミーが用意した金の送り先に向かう二人。
テルマの夫・ダリルは勝手に旅行に行ったことをいまだに怒っている。テルマは呆れ、二人はメキシコに逃げることを決める。途中、若い青年のJDと出会う。
最も危険な場所への接近
金の送り先にはジミーが待っていた。ジミーから金をもらい、テルマが預かる。
ジミーは結婚を申し込むが、断るルイーズ。ルイーズはジミーと、テルマはJDと一晩を過ごす。
最大の試練
翌朝、ジミーが帰っていく。
しかし、JDに金を盗まれてしまい、絶望するルイーズ。
報酬
強盗をしていたJDから話を聞いていたテルマは、JDのやり方で強盗をし、金を得る。
帰路
JDが警察に捕まり、テルマたちについて話す。メキシコ行きがバレてしまった。
復活
逆探知していた警察と話すルイーズ。
警察は事件の真実に気づいており、二人を助けようとするが、それでも捕まりたくないと逃げ続ける二人。二人はこの旅が最高と感じ、テルマは目覚めたような気分だと話す。
途中、女性をバカにしたトラックの運転手に仕返しをする。
宝を持っての帰還
警察に見つかり、グランドキャニオンに辿り着く二人。
周囲を警察に囲まれ、逃げ道はない。捕まるくらいなら、と二人は崖に向かって大ジャンプする。
映画『テルマ&ルイーズ』のテーマ
『女性にも自由に生きる権利がある』
これがテーマです。
典型的なパワハラ夫・ダリルに家に縛り付けられていたテルマと、かつてテキサスでレイプされたであろうルイーズ。
男性社会の中でがんじがらめに生きていた女性二人が、犯罪を重ねることで徐々に社会から逸脱していき、皮肉なことにそのおかげで女性らしさ、自分らしさを取り戻していくと言う構造になっています。
映画『テルマ&ルイーズ』をさらに詳しく
ヒーローズジャーニーとは別に、もう一つ大切な要素が『三幕構成』。
三幕構成を用いてワンシーンずつみていきます。
第一幕
オープニング。夜明けの荒野。
この風景を見て皆さんはどう思うでしょうか。自分は解放・自由を思いました。
もちろんロード・ムービーの主な舞台となる場所でもあり、ラストシーンとのブックエンドの関係になっていますが、それだけではない何かを観客に感じてもらうためにこのオープニングにしたのだと思います。
音楽・モノクロ・カラーとこの映画でも少しづつ情報を付け足しながら映画を始めていますね。
ロード・ムービーで大事なことはただ主人公たちが移動して障害を乗り越えていくだけではなく、その移動の過程で主人公たちの内面の変化・成長をしっかり描くことです。
その点でも、やはりこの映画は素晴らしい脚本だと言えます。
ウェイトレスの仕事をしているルイーズ、朝食の準備をしているテルマ。と動きで彼女たちの職業や状況を見せると同時に、電話でのルイーズのセリフ「用意できた?今夜出発よ」と物語の今後の展開を始めています。
非常に素早い説明の仕方ですね。バディものなので会話の内容で観客に説明できることが大きなアドバンテージになっています。
ダリルはワンシーンで典型的なパワハラ夫とわかりますね。
暴力はしないのですぐに逃げろとは思いませんが、続けてもいいことはない男だと伝わってきます。この後もダリルはピエロなキャラクターとして楽しませてくれますね。
旅行の準備の対比で、テルマとルイーズの性格の違いを見せています。さりげないシーンですがこのようなディテールが完成度に大きな差を与えます。
第一幕の目的は山の別荘へ向かい、楽しい旅行をすることです。
ルイーズはテキサスでのトラウマ、テルマはダリルに夕食を用意しないなど、男に対する抵抗・復讐心はすでに二人の中にあり、それが徐々に表に出てくるような構造になっていますね。
ハーランがナンパしてくるシーン。
ルイーズとウェイトレスがハーランに辞めさせるように促しますが、すぐに気を許して信用してしまうテルマはハーランと踊り始める。この映画では一貫して彼女の欠点が二人の状況を何度も悪化させていますね。
仲良くバカンスへ出発→ハーラン殺害→ダイナー・ホテルで仲違い→二人で出発、と一幕の中でも関係性の変化や起承転結がしっかりと出来上がっています。
一幕は準備の段階と思われがちですが、一幕の中にも物語があり、何かのきっかけでその物語が違う方向へ変化する、という発展の仕方が理想的であり、この脚本でもできていますね。
バカンスから逃避行へ、目的は変わりましたが『二人の旅』という行動は同じな点がとても素晴らしいです。
『警察に向かわず、二人はメキシコに逃げることを決める』ここまで少し長くなりましたが、これが第一ターニングポイントです。
二人が主人公なので、ルイーズだけでなくテルマも自分で決めることが重要です。電話でダリルに言い返したテルマ、すでに成長が始まっています。
第二幕
JDとの出会い方も、一度は断る。これはJDとのサブストーリーにおける『冒険の拒否』にあたりますね。
逃避行の最中でも決してテキサスを通りたくないルイーズ。
ルイーズは計画性のあるキャラですが、テキサスだけは通らないという非効率な行動をします。矛盾する行動がキャラクターの深さを見せますね。
テルマは現在の夫・ダリルを、テルマは過去のテキサスでのトラウマをそれぞれの男性に対する問題と設定しています。
こんな緊急事態に、ジミーはプロポーズをする。
素晴らしいことですがこれがますますルイーズを追い詰めることになっていますね。
これまでずっと一緒にいた二人ですが、ローテルで初めて離れ離れになる。別々の部屋にいますがそれぞれちゃんと物語を作り同時並行で描く。
しかも離れ離れでなければ描けないようなことを。当たり前のように見えてしまいますが、素晴らしいです。
翌朝のダイナー。
最高のセックスをしたと興奮するテルマ。生き生きした演技がとても良いですね。
直後にお金を盗まれたことが発覚しルイーズが絶望する。またもテルマの欠点から窮地に立たされますが、一幕との対比で今度はテルマがルイーズを引っ張り上げます。
セックスをきっかけにテルマを自信を持った強いキャラクターに変化させていますね。
時折年配の人々が映るカットがあるのはなんのメッセージが込められているんでしょう。これも受け取る人々それぞれに答えがありそうです。
口紅を捨て、後にはピアスや指輪などの装飾品とハットを交換してもらうルイーズ。
女性らしいものをどんどん捨てる。
衣装の変化で心の変化を表していますね。
テルマもワイルド・ターキーが小瓶から大きな瓶に変わっています。
『メキシコ行きがバレても、逃げ続けることを決める』、これが第二ターニングポイントです。
第三幕
ついに警察に現在地がバレてしまうルイーズたち。
警察との電話で、死を意識していることを話すルイーズ。観客にも、この旅の結末に死の匂いを感じさせます。
人間として覚醒した二人は、男性社会への復讐・その象徴として無礼なトラック運転手にお仕置き、つまりトラックを爆発させます。
第一幕のハーランのように勢い余って、という訳ではなくはっきりと自分の意思で男性社会と戦い、勝つようになりました。
ここで突然の黒人サイクリストがパトカーに閉じ込められた警官を救うシーンが入りますが、なぜこのタイミングで入れたのかはわかりませんね。
ラストに向けた緩急なのか、はたまた別の意味なのか。とりあえず煙をトランクに吹き込む行為は最高です。
警察とカーチェイスをし、グランドキャニオンに追い詰められる二人。
走りながら二人の旅と友情、キスをして絆を確かめ(このキスは恋愛感情ではない)、手を握りあいながら谷へと突っ込んでいく。
確定したシーンはないのですが、おそらく二人は死んだでしょう。
しかしその死は決して負けた訳ではありません。むしろ二人の負けはこの男性社会のまま、男に抑圧されたまま生き続けることです。
二人は堕落した社会に見切りをつけ、悔いのない人生を全うしたのです。
さいごに
今でも続く女性へのハラスメントをテーマに置いた、シンプルながら力強いメッセージと生き生きと演じる二人の姿が素晴らしい映画でしたね。
次回はU-NEXTで配信中、サム・メンデス監督の『アメリカン・ビューティー』を研究します!
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-fin-