映画『息子の部屋』の解説(ネタバレ有)息子の死を受け入れようとする家族を描いた、ナンニ・モレッティの傑作
こんにちは。
akira(@akira_movielabo)です。
今回の深掘り映画は『息子の部屋』です。
2001年公開の人間ドラマ映画。
監督ナンニ・モレッティ、脚本ナンニ・モレッティ、ハイドラン・シュリーフ、リンダ・フェリ。99分。
第14回ヨーロッパ映画賞で作品賞ノミネート、第54回カンヌ国際映画祭にてパルム・ドール受賞しました。
監督のナンニ・モレッティ自身が主人公のジョバンニを演じていますね。
ナンニは他にも『親愛なる日記』でカンヌ国際映画祭監督賞、『ローマ法王の休日』でパルム・ドールにノミネート。
カンヌ国際映画祭にゆかり深い監督たちのオムニバス映画『それぞれのシネマ』に参加し、2012年にはカンヌ国際映画祭の審査委員長を務めるなどカンヌととても縁が深い監督です。
エディを演じたマリア・ベロ、リッチーを演じたウィリアム・ハートなど、脇役たちの評価もとても高い作品です。
映画『息子の部屋』が観られる配信サービス
この記事はネタバレも含むので、1度観てから一緒に考察していくのがおすすめです。
下の表から自身の使っているサービスで観られるか確認してみてください。
配信状況
サービス | 配信状況 | 配信種別 |
---|---|---|
U-NEXT | ◯ | 定額 ※1 |
Prime Video | ◯ | レンタル ※2 |
NETFLIX | × | ー |
Hulu | × | ー |
Disney+ | × | ー |
TSUTAYA DISCAS ※3 | ◯ | 定額 ※1 |
※1 定額は毎月支払うサービス利用料内で観ることができる見放題作品です。
※2 レンタルは見放題作品に含まれておらず、別途レンタル料が発生します。
※3 TSUTAYA DISCASは宅配レンタルサービスです。
この記事の情報は、2023年12月時点のものです。最新の配信状況はお使いいただくサービスにてご確認ください。
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U-NEXTはトライアル期間が1ヶ月あるので、使い心地を自分で実際試せます。まだ使ったことがない人は、ぜひこの機会に試してみてください。
他にもオススメの動画配信(VOD)サービスを選ぶ基準別に紹介しているので、使うサービスに悩んでいる人や、気になる人はこちらの記事をご覧ください。
映画『息子の部屋』のヒーローズジャーニー
それでは、映画の流れがヒーローズジャーニーの法則に沿って進んでいくのかみていきましょう。
ヒーローズジャーニーって何?
という方はこちらの記事をどうぞ!!
日常世界
精神科医のジョバンニ。妻のパオラ、息子アンドレア、娘イレーネと幸せに過ごしている。
冒険への誘い
アンドレアが学校で盗みをした疑惑がかけられる。
冒険の拒否
盗みを目撃した生徒と話すジョバンニ。アンドレアがやったとは信じない。
賢者との出会い
患者の話を聞き、話すことで多くの患者の治療をするジョバンニ。
戸口の通過
アンドレアが事故で亡くなる。
試練、仲間、敵
悲しみにくれるジョバンニたち。ジョバンニは仕事に身が入らない。
最も危険な場所への接近
イレーネはアンドレアのミサがしたいと話す。
最大の試練
ミサでの神父の話に怒るジョバンニ。
報酬
アンドレアあての手紙が届き、アリアンナの存在を知るジョバンニたち。アンドレアの死を伝える手紙を書くと話すジョバンニ。
帰路
しかし書けないジョバンニ。パオラは激怒する。ある朝、パオラはアリアンナに電話しアンドレアの死を伝える。会いたいと話すが、断られる。
ジョバンニは仕事を辞める。
復活
アリアンナがジョバンニの家を訪れる。アリアンナは男友達をフランスまでヒッチハイクに行く途中だ。
途中まで送るジョバンニたち。子どもたちが寝てしまったため、フランスとの国境まで車を走らせる。
宝を持っての帰還
朝になり、アリアンナたちを見送るジョバンニたち。
映画『息子の部屋』のテーマ
愛する息子を失い、大きな心の傷を追ってしまった家族。
アンドレアの最後の日を後悔し、まるで時間が止まったかのようです。
しかしジョバンニが診察で患者にアドバイスで言っているように、不安を取り除くには自分自身で乗り越えるしかなく、生きていかなければなりません。
『 心の傷を乗り越えるのは自分しかいない 』
それが本作のテーマです。
アンドレアの遺品とも言えるアリアンナにどんな小さなことでも良いから尽くそうとする両親の姿。
もうアリアンナはアンドレアの彼女とは言えず現実を知りますが、アリアンナは彼女の人生を進み、イレーネも死を受け入れて立ち直り、学校の友人たちと楽しく過ごし始めています。
パオラもアンドレアの死を受け入れ、アリアンナに伝えることが出来ました。
彼女たちの姿が、アンドレアがいないジョバンニの人生の新たな一歩へと繋がっています。
映画『息子の部屋』をさらに詳しく
ヒーローズジャーニーとは別に、もう一つ大切な要素が『三幕構成』。
三幕構成を用いてワンシーンずつみていきます。
第一幕
オープニング。タイトルから主人公・ジョバンニのランニングへ。
軽やかな音楽も合間って、ゆったりしたムードの映画と示されます。
家に帰るなり、学校へ呼び出されるジョバンニ。
一幕ではアンドレアの窃盗騒動を中心に、家族の絆を描いていきます。
それらはアンドレア死後の変化をより強調するための伏線ということですね。
仕事中のジョバンニを見せることで職業を説明。
「自分を責めるよりもまずやるべきことをやる。闇雲に動いても解決しません。人々と穏やかな生活を築くんです」
ジョバンニが患者に語るこのセリフは、アンドレアを失ったジョバンニに対するメッセージ・映画のテーマでもあります。
ジョバンニの移動シーンで職場と家が同じ建物であることも見せています。
職場の場所などどうでも良いことかもしれませんが、家の位置・地形や習慣なども細かく決めることでキャラクターが浮かび上がりますし、想像が広がっていきます。小さなことも矛盾や頭に引っ掛かると観客は映画に集中できなくなってしまうので、この説明も大事なことです。
アンドレアにテニスの試合後に話をしたり、わざわざパオラの職場を訪れて話したりとジョバンニの溺愛ぶりを見せています。
その後のシーンで、患者に対し妄想で言いたいことを言うジョバンニ。
アンドレアのことや曲者だらけの患者たち。ジョバンニのなかで知らず知らずにストレスが溜まっていることが分かります。そして第二幕以降さらに大きなストレスが襲いかかってきます。
アンドレアがパオラに化石を盗んだことを告白します。
ジョバンニには言えなかったとのことで、アンドレアの優しさとジョバンニの欠点が分かります。ジョバンニはアンドレアが打ち明けようとしていたことを感じ取れませんでした。
そして事故の日。ジョバンニたちはそれぞれの1日を過ごします。
少し怖い音楽が流れ、トラックとすれ違うジョバンニ、パオラは市場で盗みに出くわし、イレーネはバイクに乗りながらふざけたりと不穏な気配を感じさせます。
そして家に帰ってきたジョバンニはアンドレアが亡くなったことを知る。
これが第一ターニングポイントです。
第二幕
イレーネを迎えに行くジョバンニ。
バスケの試合中に立ち止まるイレーネ。集団の中で一人動かないことで異常事態を強調し、またイレーネも含め家族の時間が止まってしまったことを表しています。
遊園地を彷徨うジョバンニ。これも集団の中の異質な存在です。
イレーネが朝食をパオラに運ぶ。ジョバンニは返事がない。
誰もいない食卓。第一幕とは真逆の風景となってしまいました。イレーネもどうしたらいいか分からず、彷徨うだけです。
そんなことがあっても仕事をしなければならないジョバンニ。ジョバンニの泣きながらした電話が嬉しいや、アンドレアの葬式に行かずsexをしていたなどの話を聞かなければならないジョバンニ。大変な仕事です。
事故死の真相を知りたがり、急患に行ったこと、もし行かなければ違ったかもしれないと何度も後悔するジョバンニ。
パオラも気力を失くし、イレーネはバスケの試合で乱闘騒ぎを起こしてしまいます。
悲しみのどん底にいる一家。アンドレアのミサで話した神父の言葉も全く慰めになりません。
アリアンナへの手紙がかけず、後悔をパオラにぶつけるジョバンニ。パオラはすでに悲しみを受け止め前に進もうとしているので、そんなジョバンニの言葉に激怒します。
だからこそパオラはアリアンナに電話し、アンドレアの死を伝えることができたのです。
仕事を辞める決意をするジョバンニ。
第二ターニングポイントです。
第三幕
あの日急患に行った患者に辞めることを説明しようとしますが、逆に患者から辞めることを話されます。
アリアンナへの死を伝えることもパオラがやり、患者も自分で去っていく。ジョバンニは何も出来ません。
突然訪れたアリアンナ。ヒッチハイクの途中と聞いたジョバンニはガソリンスタンドまで、さらには朝まで車を走らせフランスの国境まで向かいます。
何でも良いから何かしたい、そしてできることがある。という気持ちがひしひしと伝わってきますね。
アリアンナと男友達が恋人であること。アリアンナはアンドレアを置いて進んでいる現実もジョバンニは受け止めます。
ラストシーン。最後はアリアンナの乗るバスからの視点。これまでジョバンニの視点で物語を見ていましたが、最後は客観的にジョバンニたちを見届けます。
アリアンナたちを見送ったあと、浜辺を歩く3人。3人の距離は近いわけでもなく、離れていくわけでもなく。もう元には戻らない絶妙な家族の距離感を表しています。
そして海はアンドレアが死んだ場所でありそこで歩くことはアンドレアの死を受け入れたという意味で、まるで一緒にいるようにも思えます。
バスは次第に離れていき、物陰に隠れて彼らは見えなくなる。
一度は壊れてしまった家族ですが、映画が終わっても3人はきっと生き続けていくはずです。
さいごに
派手なシーンはありませんが、息子を失った悲しみと家族の再生を丁寧に描いた素晴らしい映画でした。
次回はサスペンス映画の傑作、ジョナサン・デミ監督の『羊たちの沈黙』を研究します。
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