映画『ザ・グレイ』の解説(ネタバレ有)絶体絶命の時こそ、人としての強さが垣間見える。
こんにちは。
akira(@akira_movielabo)です。
今回の深掘り映画は『ザ・グレイ』。
2011年公開のサスペンススリラー映画。
監督ジョー・カーナハン、脚本ジョー・カーナハン、イーアン・マッケンジー・ジェファーズ。117分。
2010年のアクション映画『特攻野郎Aチーム THE MOVIE』と同じく、監督ジョー、製作にリドリー・スコット・トニー・スコット、主演リーアム・ニーソンというメンバーで作られました
脚本を書いたイーアン・マッケンジー・ジェファーズの短編を基にしたようです。
映画『ザ・グレイ』が観られる配信サービス
この記事はネタバレも含むので、1度観てから一緒に考察していくのがおすすめです。
下の表から自身の使っているサービスで観られるか確認してみてください。
配信状況
サービス | 配信状況 | 種別 |
---|---|---|
U-NEXT | × | ー |
Prime Video | × | ー |
NETFLIX | × | ー |
Hulu | × | ー |
Disney+ | × | ー |
TSUTAYA DISCAS ※3 | ◯ | 定額 ※1 |
※1 定額は毎月支払うサービス利用料内で観ることができる見放題作品です。
※2 レンタルは見放題作品に含まれておらず、別途レンタル料が発生します。
※3 TSUTAYA DISCASは宅配レンタルサービスです。
※4 Prime VideoのスターチャンネルEXは、別途月額利用料が発生します。
この記事の情報は、2023年12月時点のものです。最新の配信状況はお使いいただくサービスにてご確認ください。
残念ながら今回紹介する作品は、U-NEXTやPrime Videoなどの動画配信(VOD)サービスでの配信がされていません。
観たい映画が自分の登録しているサービスにはなくて観られない!!
なんてことが多い人は、TSUTAYA DISCASやゲオ宅配レンタルのような宅配レンタルサービスがオススメです。
確かにディスクが届いてからでないと観られないので、思いついた時にスグ観られる動画配信(VOD)サービスのような便利さはありませんが、DVDやBlu-rayとしてディスクになった作品はほとんど観ることができます。
どちらも1ヶ月のトライアルもあるので、気になる人は使い心地を試してみてください。
オススメの動画配信(VOD)サービスを選ぶ基準別に紹介しているので、使うサービスに悩んでいる人や、気になる人はこちらの記事をご覧ください。
映画『ザ・グレイ』のヒーローズジャーニー
それでは、映画の流れがヒーローズジャーニーの法則に沿って進んでいくのかみていきましょう。
ヒーローズジャーニーって何?
という方はこちらの記事をどうぞ!!
日常世界/賢者との出会い
雪山にある石油会社。オットウェイは狼の見張りとして勤務していた。妻を亡くし、人生に絶望したために自殺をしようとしていたが、狼の遠吠えが聞こえ、踏みとどまる。
冒険への誘い
会社を飛び立った飛行機が墜落し、生き残ったオットウェイら7人。
冒険の拒否
散乱した荷物や機体から、食料や燃料を集める。狼たちが死体を食べている。ここが狼の縄張りの中ならば、いずれ襲ってくるかもしれない。
戸口の通過
交代で見張りを立てて寝ていたが、一人が狼に殺されてしまった。森に向かって移動するオットウェイたち。亡き仲間たちの財布を家族に届けるために集め、去っていく。
試練、仲間、敵
狼、激しい吹雪、低酸素症。二人の仲間が死んでしまう。
最も危険な場所への接近
木こりが木を切り倒した跡を見つけるオットウェイ。崖の向こうに川を見つける。
最大の試練
崖を飛び降り、ロープを張って渡るオットウェイたち。最後の一人の時、ロープが切れて落ちてしまい、狼に狙われて死んでしまう。
報酬
川に辿り着き、川沿いを進むオットウェイら3人。足を負傷した仲間が諦め、その場に残る。狼に襲われてしまう。
帰路
残ったオットウェイとヘンリック。狼に狙われ、逃げる最中にヘンリックが川に流され、溺死してしまう。神になぜこんな仕打ちをしたのか問うオットウェイ。
復活
一人でやるしかないと再び決意し、山を進むオットウェイ。仲間たちの財布を並べ、仲間を想う。周囲を狼に囲まれる。ここは狼の巣穴だった。
宝を持っての帰還
亡き妻、父の残した詩を思い出し、武装するオットウェイ。最後の戦いに挑む。
映画『ザ・グレイ』のテーマ
極寒の雪山の中、人喰い狼に狙われる。
過酷な環境・状況の中で生き残ることが大きな物語の目標ですが、内的な目標としては、オットウェイの妻が残した『恐れないで』と言う言葉。
そして父の詩を使って表現されています。
『救いのない世界をどう生きるか』。
これがテーマです。
『恐れないで』と言う言葉だけでは何に対して恐れないか、にはいろいろな解釈があると思いますが、自分は『生きることを恐れないで』ととらえました。
オットウェイの性格や自分への愛情の深さを知っていた妻が、私が死んでも生きることを恐れないで欲しいと言う願いを込めたのだろうと思います。裏を返せば、『私の死を恐れないで』ともとらえられるので、表裏一体とも言えますね。
そして父の残した詩。『戦いに挑み勝つことは、死すら超えるほどの価値がある』と言うメッセージが含まれていると思います。
それを思い出し、たとえどんな状況になろうと最後まで諦めずに生きる。最強に対して最後の戦いに挑む。亡き妻と父を使って二重にテーマを表している点がとても素晴らしいですね。
狼が最強の敵として描かれていますが、オットウェイと狼には共通点があります。
冒頭にある死にかけた狼をさするシーン、そしてラストシーンのリーアム・ニーソンの顔。死にかけの狼と精神的に死にかけているオットウェイ、ボスの狼と闘争心に満ちたオットウェイ。まさに彼の心情とリンクしています。
映画『ザ・グレイ』をさらに詳しく
ヒーローズジャーニーとは別に、もう一つ大切な要素が『三幕構成』。
三幕構成を用いてワンシーンずつみていきます。
第一幕
オープニング。
狼の遠吠え。極寒の地。石油会社のスナイパーとして勤務するオットウェイ。
まずは舞台となる雪山と、モチーフとなる狼を提示。オットウェイのナレーションを通じて状況を説明します。オープニングなので観客はどういう映画・設定なのか知りたいため、ナレーションの説明も気にならず、心の声でもあるためオットウェイの心を深く知ることができます。もちろん手紙を書いているという設定になっていますが。
本編では残酷なシーンが多いため、対比としてオープニングは緩やかに入っていますね。
十字架のバーは石油会社の唯一の娯楽・救いの場でもあり、『この世に救いがあるのかどうか』と言う映画のテーマも表しています。
自殺しようとするオットウェイ。映画の定番である主人公が崖っぷちの状態からスタートしています。伏線の妻の姿、父の詩を見せて、バックグラウンドの説明は終了。飛行機のシーンに入り物語が始まります。
飛行機内のやりとりで今後の生存者をさりげなく印象付けています。よくある手法ですが、絶対に必要な伏線ですね。
飛行機が墜落。墜落シーンのオットウェイの動きから、判断力の高さが伺えます。シーツの中にいる妻から、そのまま雪原に続くアイディアはとても面白いですね。
もう助からず、パニックになるルウェンデンを安らかに逝かせるオットウェイ。狼の知識や生死に関わるシーンの行動などで他のキャラクターと違いを見せることで、主人公らしさを見せています。観客よりも優位に立つヒーロー的な主人公ですね。
財布を盗もうとするディアスに激怒するオットウェイ。遺族のために亡くなった仲間の財布を集め、ヘンリックは機体から離れる際に仲間に祈りを捧げます。こんな状況になろうとも人としての信念を貫く行動に、そのキャラクターの心の強さが表れています。そしてそういうキャラクターはなるべく長く生きるようになっていますね。財布をキーアイテムにしているところがアメリカらしいです。
『狼から逃れるため、森に移動するオットウェイら生存者たち』。
これが第一ターニングポイントです。
第二幕
他の映画でもよく見られますが、『焚き火』を囲むシーンはとても重要なシーンになりがちです(焚き火のみならず、休みながら話すと言うシーン)。
最初は友人でもなんでもなかったキャラクター同士が親睦を深め、キャラクターの過去を話す。それらの多くは伏線となりますが、この映画でもまさにそうなります。俗に言う死亡フラグですね。障害→一人脱落→焚き火で関係を深める→再び障害、と繰り返していく展開の仕方です。
それぞれ違うシチュエーション、死に方、ディアスのシーンでは狼に勝つことで変化を加えているので、繰り返しが気にならなくなっていますね。
すぐに解決しますが、ディアスの反発もこういうシチュエーションの映画ならば必須な出来事です。仲良しこよしの会話だけではなく、ぶつかり合うことで確実に仲間との絆が強くなっています。
映画の中で障害は4つ以上あるといいそうなのですが、この映画の場合狼、高山病、崖、絶望と設定されており、寒さや食料問題は排除しています。
『崖を飛び越える決意をする』。
これが第二ターニングポイントです。
第三幕
ロープを渡る最中にタルゲットが落下し、最期の時に娘がよくする髪の遊びを思い出す。
このシーンで娘の顔が映りますが、もっと踏み込んで娘のセリフもなしで、髪の毛だけにしても良かったのかな〜と思いました。
ディアスとの別れのシーン。
美しい景色とは裏腹に、死を覚悟した会話の対比がとても面白いです。木を中心としたキャラクターの立ち位置・移動も興味深いですね。ヘンリックの立ち位置でディアスとの説得・諦めを見せ、最後までディアスの望みを尊重・ヘンリックを否定するわけでもなく、中立のオットウェイは木の隣から動きません。
徐々にディアスの後ろ姿に寄っていくカメラワークが狼の視点となっており、狼は映りませんが唸る声でディアスの死を感じさせます。
後になってこのようなキャラクターが実は生きていました、という展開の物語もありますが、そんな野暮なことはしませんね。
最後に残ったヘンリックがオープニングにあったオットウェイの核心を観客に思い出させ、退場。ラストへと向かいます。
これまでのキャラクターとのやりとりが全て集約された財布を並べるシーン。結局巣穴に行き着いてしまうのは、物語としてはまあそうだよな、とも思えるんですが、あまりにも可哀想で少しご都合で、ちょっと笑ってしまいますね。
一度は死のうとした男が、どんな状況に追い込まれようとも最後まで戦い、生きようとする。現実的に考えればラストの後にオットウェイは死にますが、物語としてはこの時点で勝利しているのです。
さいごに
雪山のサバイバル、狼との戦いだけでなく、それぞれのキャラクターのドラマもしっかりと描かれた素晴らしい映画でした。
次回はリドリー・スコット監督の『テルマ&ルイーズ』を研究します!
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